小児医療・小児救急・新生児医療提供体制の
改革ビジョン

 

 今、小児医療の現場はー 

わが国の小児医療・救急医療・新生児医療体制は小規模な病院小児科と小規模なNICUで構成されています。その結果として少数の医師は他科の医師と比較にならない頻回の当直、休日勤務を強いられています。同時に患者さんの小児科専門志向とあいまって時間外に受診される患者さんは増加の一途をたどり、サービスの低下を招くようになっています。そこで日本小児科学会では平成149月「小児救急プロジェクチーム」を設置してこの問題を検討してきました。その結果として「小児医療提供体制改革の目標と作業計画」をとりまとめるに至っています。そこで小児医療,新生児医療提供体制の改革ビジョンの目的として3つのポイントを掲げました。

 

 改革ビジョン・3つのポイント 

1. 効率的な小児医療提供体制へ向けての構造改革としては、

(ア)   入院小児医療提供体制の集約化

(イ)   身近な小児医療の提供は継続、

(ウ)   さらに広く小児保健、育児援助、学校保健などの充実を図ります。

2. 次に広域医療圏における小児救急体制の整備を進めます。その主な内容は

(ア)    小児時間外診療は24時間、365日をすべての地域小児科医で担当し、

(イ)    小児領域における3次救命救急医療の整備を進めます。

3. それらの改革を進めるに当たって、労働基準法等に準拠した小児科医勤務環境の実現を目指します。また医師の臨床研修・卒前・卒後教育に必要十分な場を提供します。

小児科標榜医など小児を日常的に診療している医師

 そうすると、地域の小児科やこどもの救急医療は今後どうなるでしょう? 

具体的なモデルとしては、現存する小児科の中から、二次医療圏(いくつかの市町村で構成)に1箇所ないし数箇所の「地域小児科センター」を整備し、これを地域における小児専門医療の中心に育てる必要があります。「地域小児科センター」は小児救急・新生児集中治療の両方またはいずれかの機能を備えることにします。

その上で既存の病院小児科と「地域小児科センター」をグループとして位置づけ、医師や研修医はセンターとの交流を図りつつ、外来診療を中心とした身近な小児医療を提供することとし、入院医療はオンコールで対応可能な患者を中心とするように縮小します。

従って「地域小児科センター」の医師数は少なくとも10名以上としますが、一般小児科はむしろ医師数を縮小して6名以内にとどめ、3名で診療が可能な形を考えています。なお一般小児科は小児救急を担当せず、その医師も「地域小児科センター」の一次救急に当番参加することになります。また定期的に「地域小児科センター」の医師と交代して、地域の病院で働く小児科医がセンター医療と一般小児科医療の両方を担うことが望ましい形であろうと考えられます。両者は診療面の交流だけでなく、専門医研修や研究においてひとつの組織体として取り組むことも可能でしょう。

小児救急については「地域小児科センター」に一次時間外診療を地域の小児科医が全体として共同で参加する「夜間・休日急病診療所」(市町村経営)を設置し、「地域小児科センター」本体は入院の必要な患者への対応を行うこととします。

三次医療圏(都道府県全域)には大学や小児病院を中心に少なくとも一箇所の中核小児科を整備して、高度な小児医療を提供すると共に、教育・研究を担うことになります。

 

 目指す形は 

この構想により次のような体制が構築されて行く必要があります。

@    地域の小児科は機能分担を進めます。

A    二次医療圏の病院小児科医は「地域小児科センター」または「病院(過疎)小児科」に所属しつつ連携・交流を進め、医療圏の病院小児医療を医師全体のグループで維持する体制を目指します。

B    小児科・新生児科の専門医研修、新医師臨床研修プログラムを「地域小児科センター」とグループ全体で履修できる条件を整えます。

C    医師の夜間勤務の翌日は勤務なしとし、労働条件を整えます。

D    女性医師は産前産後休暇、育児休暇を取れる条件を整えます。

 

 どの様にして実現するか? 

日本小児科学会理事会は調査や現状分析と平行して、今具体的な行動の一歩を踏み出すことが重要であるとの判断のものに、小児科学会の事業として本計画を強力に推進する決意です。しかしそれを着実かつ具体的に各地域の実情に適合した改革として推進するためには、それぞれの地域での主体的な取り組みが不可欠と考えています。

同時に、こうした小児医療提供体制を構築してゆくための基本条件として、

@    小児科診療報酬が一般小児科でも採算をとれる内容とすること。

A    市町村を越えた小児救急の地域を実現するため、地方自治体と住民の理解と協力が得られること。

B    現在医師派遣という形で医師の人事に関与している大学小児科教室が、新しい小児医療提供体制の必要性を理解し、その発展のために主体的に参加すること。必要に応じて「地域小児科センター」に複数大学の共同支援を行うこと。

 

 皆さんの考えをお聞かせください 

本案はわが国における将来の小児医療提供体制の基本骨格を提案しているものであり、全国統一の医療組織を提唱しているものではありません。また、その具体的な肉付け、詳細プランの立案はこれからの検討に委ねられており、それを実施するのは地方単位の主体的な取り組みであり、日本小児科学会は基本方針についての指導・助言・調整等の役割を果たすものです。

また本案は常に改善されてゆくものと位置づけており、自由な討論の素材として提供されています。理事会・小児救急プロジェクトチームは建設的なご意見を歓迎します。

 

日本小児科学会

小児医療政策室(〜2008年度)

室長  藤村 正哲
小児医療改革・救急プロジェクトチーム(〜2008年度) 委員長 中澤 誠